【2012年9月アフリカ・ワイルドライフコミュニケーション取材記 ④】
◆アンボセリ国立公園②
動物たちを見ていると、家族の絆の深さに感動を覚えます。
人にそれぞれ役割や使命があるように、動物にもその人生において果たすべき目的があります。彼らはただ本能のまま生きているのではなく、それぞれかけがえのない人生を生きています。そして多くの動物にとって大切なものは家族や親子の絆であり、その中で自らの役割を果たそうとしています。
アンボセリ国立公園で出会ったあるシマウマは、群れを守るために責任を果す強い意志をもっていました。それはまるで勇敢な戦士のようであり、彼は群れの守り手として生きていました。
彼は群れの一番外側、サファリカーの通る道に一番近い場所で草を食んでいました。なぜそのような場所にいるのか興味をもった私は、日本から動物たちを話しをするためにやって来たこと、気持ちを知りたいという意識をエネルギーのせて彼に送りました。すると、私の心の中に彼の心が流れ込み、群れを外敵から守るために外側にいるということが伝わってきました。
「あなたが自分だけではなく、群れの仲間も守ろうとしていることがよくわかります。あなたの責任感の強さと勇敢さは素晴らしいです」そのように私が意識を送ると、彼はりりしい顔をこちらに向け、明らかに私と「つながった」状態になりました。
「私たちは、いつ肉食獣から襲われるかわからない。あるいは他のオスとの関係において、戦いがあるかもしれない。しかし、私は必ず責任を果たす。群れを守るために責任を果たす」
「あなたの強い思いに心から感動します。私もあなたのような勇気と強さをもちたいと思います。あなたはなぜそのように強い意志を持つようになったのですか?」
「私は母親と一緒に暮らしている時から、勇敢なオスたちの姿を見てきた。自分たちを守るために、勇気あるオスは命をかけて守ってきてくれた。だから私も成長したら、あの立派なオスのようになりたいと思った」そう語る彼の横顔は力強く誇りに満ちていました。彼は勇敢な戦士であり、その心を先代のオスたちから受け継いでいたのです。
もし、外敵に襲われたら、彼は身を挺して群れを守ることでしょう。そして、彼の雄姿は次世代の子供たちに受け継がれていくのです。
また、あるキリンの母親からは、謙虚さと母の強さを教えてもらいました。
彼女は仲間と共に幼い子供を囲んでおり、その美しい姿に心をひかれた私は、意識を向けてみました。
すると彼女は「なぜ話しかけるのですか?何の目的があるのですか?」と逆に問いかけてきました。人と心のコミュニケーションをしたことのない野生動物は、心で話しかける私の存在を不思議に思い、このようにたずね返してくることが良くあります。
「あなたが一生懸命子供を育て、守ろうとしていること、子供のために命をかけていることに感動しています。できれば気持ちを通じ合わせて、今あなたが望んでいることや気持ちを知りたいと心から願います」そのように私が伝えると、彼女は静かに答えてくれました。
「私は別に珍しいことを行っているわけではありません。私は母親から大事に育てられてきました。そして、まわりのメスたちも皆、子供を育てるということを当たり前のように行ってきました。だから私も当たり前のこととして行っています。私が今願うことは、この子が大きくなって成長し、群れの中で立派に生きていくことです。そのために私は全力を尽くしているに過ぎないのです」
危険の多いサバンナで子供を育てることはとても大変なことです。キリンの妊娠期間は15カ月で、出産は立ったまま行われ、子供は2mぐら いの 高さから直接地面に落下するような形で産みおとされます。生まれた子どもは20分程度で立つことができるようになりますが、幼い子供は常に肉食獣から狙われ、母親は大変思いをして子供を一人前に育てます。 しかし、母キリンはこの大変な状況でも、それは当たり前のことであると伝えてくれました。彼女は無償の愛で子供を守り、育てており、そこには私たち人間が学ぶべき、謙虚さと強さがあったのです。
ゾウの母親も、素晴らしいメッセージを伝えてくれました。
「私たちは毎日、たくさんの草を食べることによって生きています。そして、たくさんの水を飲むことによって、生命が維持されています。毎日毎日繰り返されるこの日常は、仲間との様々な関係や、子育て、危険から身を守ることなどの事柄で過ぎていきます。でも私は生まれてから、それに疑問を持ったことも、不満を持ったこともありません。なぜなら自分がゾウとして生きていることは、幸せなことだと感じているからです。とても深い満足を感じているのです。
私たちは必要とあれば、100キロ先の遠くにも移動します。それは必要だからです。自分だけでなく家族も仲間の者たちも、生きるために必要だから行動します。無意味なものは何もない。無意味なことは何もやっていないということが、私たち家族に満足感を与えてくれます。
あなた方人間から見れば、毎日ただ草を食べている、ただ水辺で水を飲んでいる、仲間と一緒に何もすることがないように見えるかもしれません。しかし、それはすべてにとって必要だからするのです。それがこの生命、ゾウとしての種を維持するためにとても大切な大きな原動力となっています。
必要なことをする。大切なことをする。それが、私たちの種を守る大きな力であり、ひいてはこの大地を守ることなのです」
生命が生きている一つ一つのこと、すべてのことに意味があります。そして、その生き方は個々の命の営みだけではなく、自然や地球につながっているのです。
ゾウが大量の草木を食べることで、自然破壊と干ばつが進むという人もいます。しかし、それは違います。ゾウは消化能力が低いため、彼らが食べた植物の種は遠くまで運ばれ、その種は新たな場所で発芽し森を作ります。ゾウたちは植物を食べてその土地に変化をもたらし、種を運び新たな森を創造します。彼らの生活が大地を継続させ、守ることにつながっています。
彼らが生きることで、創造・維持・変化というサイクルが生まれ、大地と緑のバランスが保たれるのです。ゾウだけではありません、動物たちが家族を愛し守りながら生きること、それぞれが必要なことを行っていくことで、大地が守られ自然が循環していくのです。家族の絆を守ることは、大地との絆を守ることにつながっているのです。